領域概要
本領域では、神経科学・ロボット工学・計算理論の分野を融合し、
ヒトの研究だけでは見えない進化的に保存される嫉妬生成メカニズムに迫ります。
多様性に富んだ現実の社会では、性別・人種・格差などの自己と他者の違いから生まれるネガティブな心的要因、障害・高齢化などにより生まれるコミュニケーションの困難さなどが足かせとなり、共生社会の実現への障害になっています。そこで本領域では、自己と他者の比較により生まれる「嫉妬」の科学的理解を通じて、こうした心的要因・コミュニケーションの問題を克服し、共生社会実現に貢献することを提案します。
嫉妬・羨望・不公平感は、いずれも関連する感情・認知・行動に多くの共通点がみられ(従って本領域では共に広義の嫉妬と定義する)、自他の相対的比較から生まれる負の感情です。例えば、ある報酬を得たときの快感は、他者がより大きな報酬を得ていることが分かると低下し、他者に対して、「嫉妬」を感じます。この嫉妬の根底にある自他の認知は、こころの基盤をなす脳機能であり、心の理論と呼ばれる他者の心の状態などを推察する機能とも共通するものです。自閉スペクトラム症や統合失調症などの精神疾患患者は、社会的関係での自己認知が限定的であるとも考えられており、自他比較が正しく機能していないことがコミュニケーション障害に繋がっている可能性が考えられます。また最近では、介護や医療などでのロボットの活躍が期待され、ヒトとロボットとの共生も喫緊の課題です。「嫉妬の科学」により得られる多面的な社会的情動の機構を応用したロボットは、今後のヒト・ロボット共生の実現に向けて大きな鍵になると考えています。
そこで本研究領域では、非ヒト霊長類およびげっ歯類の嫉妬の生成に関わる詳細かつ大規模な神経活動データの取得と活動操作による検証および、ロボットでのシミュレーションから嫉妬生成の鍵となる機能的モジュールや神経活動の現象の仮説提案とを相互に補完することにより、嫉妬の理解に繋げることを目指します。
領域代表
笠井 淳司
名古屋大学・環境医学研究所・教授